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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)1833号 判決 1988年3月25日

原告

株式会社タルガ

右代表者代表取締役

下里進

右訴訟代理人弁護士

楠田堯爾

加藤知明

田中穣

佐尾重久

右輔佐人弁理士

松波祥文

被告

ハンズトレーディングカンパニーこと

半沢茂男

右訴訟代理人弁護士

沼田安弘

小田原昌行

山口雅主

右輔佐人弁理士

神保欣正

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、

(一) 別紙イ号標章目録記載の標章を使用し、又はこれらを使用したホイール及びスポイラーを販売してはならない。

(二) 別紙イ号標章目録記載の標章を使用したホイール及びスポイラー並びにその包装箱及び宣伝用カタログを廃棄せよ。

(三) 金七八七万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年七月四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の商標権(一)、(二)(以下「本件商標権(一)、(二)」といい、その商標を「本件商標(一)、(二)」という。)の権利者である。

(一) 出願日 昭和五〇年四月二二日

公告日 同五二年五月一二日

登録日 同五三年一月一〇日

登録番号 第一三一八五五〇号

指定商品 第一二類 自動車用車輪

商標の構成 別紙図面(一)記載のとおり

(二) 出願日 昭和五六年五月三〇日

公告日 同五九年九月七日

登録日 同六〇年五月三〇日

登録番号 第一七七一四二一号

指定商品 第一二類 輸送機械器具その部品及び付属品(他の類に属するものを除く。)

商標の構成 別紙図面(二)記載のとおり

2(一)  被告は、別紙イ号標章目録記載の標章(以下「イ号標章」という。)を付した自動車用車輪(ホイール)及びスポイラーを、同標章を付した包装箱に入れて販売し、かつ、イ号標章を付した宣伝用カタログを使用している。

(二) 被告の販売するホイールは、本件商標権(一)の指定商品であり、同じくスポイラーは、商標法(以下「法」という。)施行規則三条別表第一二類、四(二)「自動車の部品及び付属品」に記載の「車体」に該当するもので、本件商標権(一)の指定商品の自動車用車輪とは類似商品の関係にある。

また、右各商品は、本件商標権(二)の指定商品でもある。

3(一)  本件商標(一)は、上段の大きな欧文字の「BBS」と、下段の小さな欧文字の「MAGNESIUM ALLOY ROAD WHEELS」との記載からなるところ、後者は、邦訳すれば、「マグネシューム合金車輪」となつて普通名称にすぎないから、その要部は前者にあることが明らかである。

同様に、本件商標(二)の要部が「BBS」にあることもいうまでもない。

(二) イ号標章は、右各「BBS」と文字のデザインがわずかに異なるだけで、文字自体は全く同一であるから、本件商標(一)、(二)と類似している。

(三) よつて、イ号標章は、本件商標権(一)、(二)を侵害するものである。

4  被告は、ホイールを一年間に約二〇〇〇本、スポイラーを同一五〇〇本販売しているところ、前者の平均販売単価は金四万五〇〇〇円、後者のそれも金四万五〇〇〇円であるから、これらの販売総額は金一億五七五〇万円となる。

そして、その利益率は、売上価格の五パーセントを下回ることはないので、原告は、過去一年間に、少なくとも金七八七万五〇〇〇円の損害を蒙つた。

5  よつて、原告は被告に対し、商標権に基づき、イ号標章の使用の差止め、イ号標章を付したホイール及びスポイラー、包装箱、宣伝用カタログの廃棄並びに損害賠償として金七八七万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後であることの明らかな昭和六〇年七月四日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は知らない。

2(一)  同2項(一)のうち、被告が、イ号標章を付したホイール及びスポイラーを、同標章を付した包装箱に入れて卸販売している事実は認めるが、その余は否認する。

(二) 同2項(二)のうち、被告の販売するホイールが本件商標権(一)の指定商品であること、同じくホイール及びスポイラーが本件商標権(二)の指定商品であることは認めるが、その余は知らない。

3(一)  同3項(一)の事実は認める。

(二) 同3項(二)の事実は認める。

(三) 同3項(三)は争う。

4  同4項は否認ないし争う。

5  同5項は争う。

三  被告の主張

1  真正商品の並行輸入の抗弁

(一) 被告の販売するホイール及びスポイラーは、一部は訴外日本ビー・ビー・エス株式会社(以下「日本ビービーエス」という。)の代理店から仕入れたものであり、一部は西独より並行輸入されたものであつて、いずれも訴外BBS―Kraftfahrzeugtechnik GmbH&Co。KG(以下「西独BBS」という。)の製造に係る真正な商品である。

もつとも、その内、シリアルナンバーが付されたRSホイールといわれるものについては、並行輸人業者を探索されぬようこれを抹消しているが、商品に西独連邦自動車登録庁の汎用製造認可書が刻印され、さらに包装箱に同認可書が入つている以上、真正商品たることに何らの妨げとなるものではない。

(二) 本件商標権(一)・(二)を有する原告と、日本ビービーエス、西独BBSの三者は、実質上同一ないしきわめて密接な関係にある。すなわち、西独BBSの役員であるハインリッヒ・ゲオルグ・バウムガートナー、クラウス・ブラント及びマルチン・ブラウンガルトは、いずれも日本ビービーエスの取締役であり、特にハインリッヒは、同社の代表取締役である。また、原告は、西独BBSの日本総代理店である日本ビービーエスより、西独BBSの製品販売についての西日本地区総代理店の資格を与えられている。

(三) 原告は、本件商標権(一)を昭和五九年四月九日に出願人である訴外下里進(原告の代表者。以下「下里」という。)より譲り受け、その移転登録を受けたものであり、また、同(二)を同五六年五月三〇日に出願しているところ、原告が右各商標を譲り受け、又は出願した当時、「BBS」の商標は、自動車部品について世界的な名声を有していた西独BBSの製造、販売に係るホイールやスポイラーを示す商標として既に日本国内においても著名であつた。

他方、日本においてこれと要部が共通な本件商標権(一)、(二)を有する原告は、独自に右商標を付した指定商品を製造してきたわけではなく、単に西独BBSにより製造され輸入されたものを譲り受け、これを販売してきたにすぎない。

したがつて、「BBS」の商標は、西独BBSの製品であることを認識、識別させるとともにその品質を保証しているのであつて、購入者も、日本ビービーエスや原告の商品であるなどとは全く認識していない。

この意味で、右商標に関する出所識別性や、品質保証を負担する相手方は、西独BBSであつて原告ら内国の販売源ではないから、本件商標(一)、(二)には、原告独自の価値や信用は全く化体されていない。

(四) ところで、商標はある特定の営業主体の営業に係る商品を表彰し、その出所の同一性を識別するとともに、同一商標の付された商品の品質を保証する機能を営むものであるところ、法も右機能を保護することにより、商標権者の利益のみならず、公共の利益を保護する目的を有している。

そうすると、イ号商標を付した西独BBSの真正商品を販売する被告の行為が、属地主義のもとにおいて、形式的には本件商標権(一)、(二)を侵すものであるとしても、本件商標(一)、(二)は商標権者ではない西独BBSの信用、価値を具現するものである以上、実質的な違法性を欠くというべきであり、原告は、その侵害を理由に、被告に対して右行為の差止め等を求めることはできないものである。

2  権利の濫用の抗弁

(一) 本件商標(一)は、昭和五〇年四月二二日原告の代表者である下里が、同(二)は、同五六年五月三〇日原告がそれぞれ出願しているものであるところ、当時、「BBS」の商標は既に西独BBSの製品に付された商標として世界的に著名であり、自ら指定商品を製造することもなく単に西独BBSの商品を国内で販売するにすぎない原告及び下里は、右商標がわが国において登録されていないことを奇貨として、西独BBSの信用、価値を利用して、瓢窃的に本件商標(一)、(二)を出願したものである。

このことは、「BBS」が特定の観念を有しない造語であつて、偶然に選定されたものとは到底考えられぬこと、及び原告又は下里が過去に海外特に西独の著名商標を自己名義で多数出願していることからも明らかである。

(二) 日本ビービーエスが設立され活動を開始する前は、原告は、並行輸入された西独BBSの製品を被告より仕入れていたものであり、被告が、原告以外の者に同製品を卸販売していることを知つて異議を唱えたこともないから、原告は、被告に対し、「BBS」の商標が付された西独BBSの製品を販売するにつき黙示の承諾を与えていたというべきである。

(三) 以上のとおり、本件請求は、原告と日本ビービーエスが一体になつて、西独BBSの製品の並行輸入を妨害するために提起したもので、商標権の属地性に藉口して不当に取引を規制し、交易を阻害するものであるから、権利の濫用として許されないものである。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1項(一)のうち、前段の事実は知らない。同後段は争う。

被告の販売するホイール及びスポイラーの販売ルートが明らかにされない以上、これらが西独BBSの真正商品であるとはいえない。仮に同社の製品であるとしても、同製品についてはシリアルナンバーが削除されているところ、同社は、かかる製品については一切責任を負わない旨言明しているから、もはや「BBS」の商標には同社の信用、価値が表示されておらず、したがつて、同製品は真正商品とはいえない。

(二) 同1項(二)のうち、原告が西独BBSの日本総代理店である日本ビービーエスよりスポイラーに関して西日本地区代理店の資格を与えられていることは認めるが、その余は否認ないし争う。

原告と西独BBSとの間に、資本上のつながりや管理監督関係は一切なく、本件商標権(一)、(二)の取得についても何らの関係もない。また、日本ビービーエスとは、本件商標権(一)、(二)の使用を許諾した結果、販売店の関係を結んだにすぎず、同一視されるべきではない。

(三) 同1項(三)は否認ないし争う。

本件商標(一)は、昭和五〇年四月二二日に下里より出願されているところ、当時、「BBS」の商標は世界的に著名であつたわけではなく、特に、日本においては、日本ビービーエスが設立されたのが昭和五八年五月一一日であつて、右商標を知る人はほとんどいなかつた。

また、原告は、昭和五六年から同五八年にかけて、自動車用部品であるルーフラックに「BBS」の商標を付して独自に製造、販売している。

(四) 同1項(四)は争う。

商標権が使用許諾された場合、右使用権者が同権利を実施する限りにおいては、その商標は使用権者の出所、品質を表彰するものであるが、それであるからといつて、商標権者がその権利を失うわけではなく、第三者に対して侵害差止めや損害賠償を請求するにつき何らの法的障害となるものではない。

2(一)  同2項(一)のうち、本件商標(一)は、昭和五〇年四月二二日、原告の代表者である下里が出願し、同(二)は、同五六年五月三〇日、原告が出願したことは認めるが、その余は否認ないし争う。

当時、「BBS」は、日本ではほとんど知る人もなかつたところ、下里は、語呂のいいのに着目し、将来、オリジナルブランドとして使用する目的で出願したものであり、瓢窃的に出願したわけではない。

また、原告は、主として自動車用部品の輸入、卸販売を業とするものであるが、輸入用品を扱う場合、その商標権が第三者に取得されると、日本では、登録主義を採つているため、その商標を付した商品を販売することができなくなる。そのため、原告は、その取扱い商品につき、防衛上、その商標を出願しているにすぎず、右はやむを得ない措置というべきである。

(二) 同2項(二)のうち、原告が被告より、西独BBSの製品を、一時的かつ少量仕入れたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(三) 同2項(三)は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一<証拠>によれば、請求原因1項の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

二請求原因2項(一)のうち、被告が、イ号標章を付したホイール及びスポイラーを、同標章を付した包装箱に入れて卸販売していること、並びに同項(二)のうち、被告の販売するホイールが本件商標権(一)の指定商品であること、同じくホイール及びスポイラーが本件商標権(二)の指定商品であること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがなく、同項(一)のうち、被告がイ号標章を付した宣伝用カタログを使用している事実も、<証拠>により、これを認めることができる。

また、同3項(一)、(二)の各事実も当事者間に争いがない。

三そこで抗弁1項について判断する。

1  <証拠>を総合すると、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  被告は、イ号標章が付された西独BBSのホイールやスポイラーを購入する場合、かつては日本ビービーエスの代理店から仕入れたこともあつたが、現在では、国内の並行輸入業者を通じて西独国内にある西独BBSの代理店に発注し、内国向けの商品を取り寄せる方法を採つている。

(二)  そして、右方法により仕入れた商品には、西独国内で販売されるものと同様、西独連邦自動車登録庁の発行する汎用製造認可書や西独特許庁の発行する商標登録簿抄本が添付され、右商品が西独BBSの製造したものであることが示されている。

右認定の事実によれば、被告の取り扱うイ号標章が付されたホイール及びスポイラーは、いずれも西独BBSが正規に製造したもので、その品質において全く同一であつて些かの差異もない、いわゆる真正商品であることが明らかである。

もつとも、<証拠>を総合すれば、被告の取り扱う西独BBSの並行輸入品のうち、RSホイールについては、キャップの中に刻印されたシリアルナンバーが抹消されており、西独BBSは、このような商品については一切責任を負わない旨言明している事実が認められる(これに反する証拠はない。)ところ、原告は、これを理由として、被告の取り扱う商品は真正商品とはいえない旨主張(被告の主張に対する認否1項(一))する。

しかし、商品に対して製造者がいかなる製造物に関する責任を負うかの問題は、その商品に付された製造番号が抹消されているか否かに直接関係するものではなく、ましてや、商標権侵害に関する真正商品の並行輸入の問題とは関連しないものというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

file_3.jpgBBS |2  そこで、右事実を前提として、被告がイ号標章を付した西独BBSの真正商品を輸入、販売する行為が、原告の本件商標権(一)、(二)を侵害するものであるか否かについて検討するに、抗弁1項(二)のうち、原告が西独BBSの日本総代理店である日本ビービーエスよりスポイラーに関して西日本地区代理店の資格を与えられていることは当事者間に争いがなく、これに<証拠>を総合すると、次の事実が認められ(る。)<証拠判断省略>中これに反する部分は、前掲各証拠に照らしてにわかに採用しがたく、他にこれを覆するに足りる証拠はない。

(一)  西独BBSは、一九六九年(昭和四四年)に元レーシングドライバーであつたハインリッヒ・バウムガルトナーと自動車用品販売業を経営していたクラウス・ブラントの二人により、レース用ボディパーツや軽合金ホイールを製造、販売する目的で、シルタッハの地に設立され、両名と地名の頭文字をとつて「BBS」と命名された。その経営陣は、右両名(社長及び副社長)と、代表権を有するもう一人の役員であるマルチン・ブラウンガルトから構成されている。

(二)  西独BBSは、その製造、販売する製品に「BBS」の商標を付し(ただし、西独国内における商標登録は一九八二年)、その優れた品質とともに、設立後ほどなくして西独国内はもちろん海外においても高い評価を獲得してきたが、日本においても、遅くとも昭和五二年ころには、当時の日本総代理店であつた訴外株式会社ユービーや中部地区代理店である訴外株式会社岐陽ビーエスの手で、カーマニア向き月刊誌「CAR GRAPHIC」誌上などにその製品の宣伝広告が掲載され、次第にカーマニアの注目を集めてきたところ、当初は、製造の委託を受けたMAHLE社の社名を併せて、「MAHLE BBS」の標章のもとで広告活動が展開されていたが、右「BBS」の部分は、「MAHLE」の部分より一段と目立つように字体及びデザインが工夫されており、一般に与える印象も大なるものがあつた。

そして、「BBS」の名称が国内で著名になるに伴い、広告に用いられる右標章から「MAHLE」の部分が削られ、単に「BBS」の商標として宣伝され、浸透した結果、一般には「BBS」といえば、西独BBSの製品に付せられた商標として認識されるようになり、現在では右評価が確立している。

(三)  下里は、昭和五〇年ころ、「MAHLE BBS」の標章を付したホイールの存在を海外の雑誌で知り、当時、外国車の部品及び用品の輸入、販売を目的として原告を設立(当初は有限会社であつたが、昭和五八年に株式会社に組織変更をした。)したばかりの同人としては、自力でホイール等を製造する能力を有しなかつたものの、将来、西独BBSの製品を取り扱う際の便宜を考慮して、昭和五〇年四月二二日、本件商標(一)を出願し、同五三年一月一〇日に登録の運びとなり、また、原告も、同五六年五月三〇日、同様の目的で本件商標(二)を出願し(同六〇年五月三〇日に登録)、現在では同五八年九月二〇日に下里より譲り受けた本件商標権(一)とともに、その権利者となつている。

なお、原告は、本件商標権(一)の登録後である昭和五六年四月ころ、独自に製造したルーフキャリーに「BBSモンテ・ルーフラック」の名称を付して売り出したことがあるが、右商品は、本件商標権(一)の指定商品ではなく、また、ほどなくして販売を中止したため、「BBS」商標と原告とを結びつける効果は皆無といつてよく、前記のとおり、「BBS」は、西独BBSの製品に付された商標としての評価が定着している。

(四)  日本ビービーエスは、昭和五八年五月ころ、西独BBSと、同じく西独の鍛造機械部品メーカーであるカールマイヤー社が資本参加しているワシマイヤー社とが折半出資して設立した会社であり、西独BBSの製品の輸入、販売に関する日本総代理店であるほか、西独BBSのノウハウを利用して独自に鍛造アルミホイールを生産している。

日本ビービーエスの役員には、西独BBSの前記役員三名が含まれ、特にバウムガートナーは、日本人社長と並んで代表取締役に就任している。

(五)  昭和五二年ころ、西独BBS製品については、前記のとおり、株式会社ユービーが日本総代理店の資格を有していたが、上記日本ビービーエスの設立に伴い、関東地区代理店に格下げされ、日本総代理店の地位に日本ビービーエスが就いているところ、原告は、同社に対して本件商標(一)、(二)の使用許諾を与え、他方では、同社との間で、西独BBSの製品のうちスポイラーに関する西日本地区代理店委託契約を締結しているほか、同社の介在しない西独BBSの製品の並行輸入による市場価格の乱れを是正するため、共同で対処する態勢をとつている。

file_4.jpgWE 8352-26321 tM 82. 5.12 ‘Bl HG 50—46988 WG 50. 4.22 WA Fie eR EMR O12 FORA fem teiRt fem 2 aA BBS WAGNESTUM ALLOY BaP OB ROAD WHEELSfile_5.jpgspe WES9-64377 s9(1984) 9.17 BL 56 —a6508 iM ss6(1981) 5 AIOE. AGTH 1318550 MLA, teat 9 tr Bsmt AM:また、原告は、日本ビービーエスとの協議により、「BBS」を要部とする本件商標(一)、(二)を権利として保有することが認められ、その侵害についても、適宜、共同で防衛する姿勢をとつている。

3 一般に、商標の有する本質的機能として、商品識別機能が挙げられるが、その作用面として重要なものは、出所表示機能と品質保証機能であることは言を俟たない。

商標法一条が、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定しているのも、かかる機能を保護することを通じて、当該商標の上に積み上げられた商標権者のグッド・ウイルを保護するとともに、需要者に対し、一定の品質が保証された商品を求めるための便宜を与えようとするものであるといえる。この意味において、商標は、商標権者の私的な利益を擁護するものであると同時に、すぐれて社会的、公共的な利益に関わる性質を有しているものというべきであるから、その権利の行使も、それに内在する社会的制約を受けることを免れないものと解される。

ところで、商標権は、「工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約」(いわゆるパリ条約)についての一九三四年六月二日ロンドンにおける改正で設けられた同条第六条Jの規定(後に一九五八年一〇月三一日リスボンにおける改正により第六条(3)となつた。)により、他の工業所有権と同様、普遍主義から商標権独立の属地主義の採用へと転換した(右パリ条約は、一九一二年ブラッセルの改正等を経て、現在わが国においては、昭和五〇年三月六日号外条約第二号となつている。)が、資本主義経済の発展に伴い、商品取引も国際化し、今日においては、企業の信用が集積された商標を背景に国際的な市場を独占する機能を営むことも十分可能となるに至つた。

しかし、右機能は、前記のとおり、商標法が本来予想したものではないから、商標権者がその本来の目的を逸脱し、適正な競業秩序を乱す結果となるような方法でその権利行使をすることは許されないことであり、したがつて、外形的には当該商標権を侵害するような行為であつても、それは違法性を欠くものと評価されるべきであり、商標権に基づく商品の販売の差止め等の対象にはなり得ないものと解するのが相当であり、この理は、大蔵省関税当局も、昭和四七年八月二五日に出された通達(蔵関第一四四三号)により、これを追認するに至つている。

これを本件について、前記認定事実を前提に要約すると、本件商標(一)、(二)と被告による西独BBSの製品の並行輸入とは、次のような関係にあるものである。すなわち、

(一)  被告の取り扱うイ号標章を付したホイール及びスポイラーは、いずれも西独BBSの製造に係る真正商品と認められること。

(二)  西独BBSは、西独国内において、イ号標章や本件商標(一)、(二)と同様の「BBS」の商標権を有していること。

(三)  原告ないしその代表者である下里は、もつぱら、西独国内で高い評価を博しており(昭和五〇年ころ)あるいは日本国内でもかかる評価の定着した(昭和五六年ころから)西独BBSの商品を国内で取り扱う場合の便宜を考えて、本件商標(一)、(二)を出願して、本件商標権(一)、(二)を取得したものであり、現に、一時的に指定商品でない自動車用品を製造して「BBS」の商標を付した例外を除いて、これを独自に使用したことはなく、西独BBSから供給された製品を販売するにとどまつていること。

(四)  自動車部品についての一般の需要者も、「BBS」なる商標は、西独BBS(ないしはこれと資本的、役員構成的に結合され、同一系列の企業体とみることができる日本ビービーエス)の製品である旨を表示し、かつ、その品質を保証するものであると認識しており、かかる評価は、本件商標(一)、(二)の出願前から現在に至るまで揺らいでいないこと。

(五)  右のとおり、西独BBSと日本ビービーエスとは、資本的、役員構成的に同一系列の企業体の関係にあり、右両社と原告との間も、現在では製品の供給や本件商標(一)、(二)の管理に関する契約上又は経済上の密接な結合を通じて、同一企業体と同視されるような特殊な関係にあること。

以上のような企業系列ないしは企業関係に照らせば、本件商標(一)、(二)の出願時においては、原告ないし下里と西独BBSとの間には上述した同一系列の企業体ないしはこれに準ずる関係が存しなかつたとしても、原告が本件商標(一)、(二)の権利者として有する業務上の信用は、西独BBSの世界市場における名声以上のものはない(原告も右名声の利用を企図して、本件商標(一)、(二)の出願をしたものである。)のであり、その出所表示、品質保証の機能は、被告がイ号標章を付した西独BBSの真正商品を輸入、販売することにより、些かも損なわれることがない上、原告と西独BBSないし日本ビービーエスとの間に上述したような同一企業体と同視されるような関係の生じた現時点においては、原告の被告に対する本件商標権(一)、(二)に基づく本件請求は、商標法の目的から乖離したもつぱら市場独占的な観点からなされている権利濫用的なものというほかなく、したがつて、被告の西独BBSの真正商品の輸入、販売等の本件行為は何ら違法なものではなく、商標権に基づく差止め等の対象にはならないものと解するのが相当である。

四以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官浦野雄幸 裁判官加藤幸雄 裁判官森脇淳一)

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